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手作りと人

古民家カフェに勤めるたかとう・ゆうなさんは 2 児の母。水鳥の越冬地として知られる宮城県北部の自然豊かな登米市に、大きなガレージのある庭付き一軒家を購入しました。タイプは違えど、夫婦どちらも、つくることが大好きな二人の暮らしぶりを紹介します。

1.手をかける名コンビ

「もともとこの家は、何かやろう!って思って買ったんです」

便利なものが溢れる中で、「手をかける生活」が好きだという、たかとう・ゆうなさん。家を買うなら絶対に中古がいい。新築はまったく考えていなかったと話す。なぜなら、ものづくりの好きな夫・りゅうじさんと一緒に、ちょっとずつリノベしていけるから。

「広い庭とガレージがあったのが大きかったですね。こういう空間があると、何かやりたくなるし、行動したくなるんです。秘密基地で大人の遊びができるぞ、みたいな。私は企画屋気質だから、こういう場所があると、イロイロひらめいちゃう。で、ひらめいたら夫に、じゃあ後はこれでよろしく~って(笑)」

たかとう夫妻の役割は明快だ。妻がアイデアを出し、夫が実際につくる。それぞれが得意な領域を自然にこなすのだ。そして、汗をかくさまざまな作業は、子どもたちも巻き込んで、楽しむ。そのバランス感覚が、二人を名コンビと呼びたくなる所以だ。

「リビング前の庭の植え込みは、コンポスト兼畑にしちゃいました。畑のレイズドベッド(木枠の栽培スペース)をつくって、そこに家で出る生ごみとかを入れて土をかぶせておくんです。そうすると、いい土ができる。これがコンポスト。その堆肥で野菜を育てます。あの縁側にあるカボチャなんかは、この夏にわんさか採れました」

収穫を終えたら、また堆肥をつくる。いま第2期の準備中で、土と一緒に生ごみや刈り取られた草木が盛られている。傍らには、何個かスコップが転がっていた。子どもたちと一緒に土を混ぜるときに使うそうだ。まさに、イチからの手づくり。うなされて玄関をあがると、リビングへと真っすぐ、長い廊下が続く。廊下の脇は、広い和室になっていた。

「ここは寝室です。布団を敷いて、家族みんなで寝ています。最初はベッドだったんですけど、畳って天然の素材なので、エネルギーを感じるというか。あと最近の家って、わざわざこういう昔っぽい造りにしないじゃないですか。そういう感じが好きなんですよね」

子どもたちが走って遊んでいるという廊下を進み、リビングに入ると、スツールの並んだカウンターがあった。カウンター下の壁には、家族みんなで漆喰(しっくい)を塗ったそうだ。よく見ると、場所によって塗り方が違っている。こういうのはどれも味なんです、と嬉しそうに話していた。

2.思いついたら、やってやろう。

リビングに落ち着く前に、2階へ案内してもらって驚いた。見事に何もない。いろいろなものをつくり、こだわるお二人が、いったいどういうわけなのだろう。

「なにもないでしょ?全然使ってないから(笑)。もともと平屋に住みたかったんですけど、条件に合うのが2階建てだけだったんです。すぐそこに飲み屋もあるし、歩いてスーパーやお肉屋さん、ドラッグストアにも行けるし、立地がよかった。でも実はアイデアがあって。ここで民泊をやりたいな~と思ってます。トイレもあるし、簡単な宿ができればなって」

この、たかとうさんの手づくりスピリットは、いつ身に付いたものなのか。「う~ん、よくわからない……」と思い当たる節がない様子。とにかく、つくることが好き。そのひと言につきる。それは、自身の仕事にも通じているようだ。

「私、古民家カフェで働いているんですけど、本当に自分たちでイチからつくったお店なんです。店名は『カフェ ラウンジ ヴァン ゴッホ』って言います。オーナーの同級生と、立ち上げからずっと一緒にやってきて。空き家を買い取って、自分たちでつくり上げました。なんというか、つくるって、私の癖みたいなものなんだと思います」

明るく開放的なリビングを、あらためて見せてもらう。カウンターキッチン、窓の外にはコンポストのある畑、ちょっとした棚や置き物、照明にグリーンの鉢植えなど、インテリアも気が利いている。冷蔵庫の脇のボードには、「宿やる」と大きく書いた貼り紙があった。

「これ、自分で貼りました。書いたのは令和6年4月1日ですね。家を買うと決めた時です。埋もれちゃってますけど、その時から『宿やりたい!』って思ってて。実はカフェのオーナーが宿もやっていて、そこで働く日もあるんです。私、何するにも決断は早い方なので、そのうちきっとやると思います。この家を買ったときもそうでした」

ふと、リビングのインテリアに流木が使われていることに気が付いた。尋ねてみると、自分たちで拾ってきた本物の流木だという。物干し竿にしていたり、棚の装飾のアクセントになっていたり。自然が好きな、たかとうさんらしい遊びが心地よい。

3.釣って、拾って、真似して、食べて。

スツールが並ぶカウンターで、よく食事をするというたかとうさん。みんなでつくったカウンターキッチンは、みんなで食事を楽しむ食卓になっているようだ。

「私、食べることが大好きなんですけど、特にちゃんと手作りされているものに惹かれるんです。ジャンルはフレンチとか、洋風が好みなんですが、チェーン店より個人経営のお店が好きだし、盛り付けがきれいなお店も好き。とにかく、手が込んでいるものに惹かれるんです。ああこれ、時間がかかってるなって感じると、なんだか気持ちがいいんですよ」

彼女の食生活を楽しませてくれるのは、夫のりゅうじさんだ。自分で釣ってきた三陸沖の魚をさばいてお寿司を握ったり、テレビやインスタで見た料理を再現してしまったり。とことん入れ込んでしまう性格のようだ。

「昨日は、このカウンターで夫がお寿司を握ってくれました。炙ってあったり、昆布締めしてあったり。気が付いたら3時間くらい経ってましたね(笑)。お寿司を握るのはけっこう前から夫の趣味で、ネットで動画を見ていると、つくりたくなるみたい。なかなかの完成度で、美味しいんです。シャリはちょっと大きいけど、お米好きだから、むしろいい!」

もちろんお店のような出来栄えとは違うと照れるが、酢飯からこだわるようだから、かなりのツワモノであることは間違いない。ちなみにお米は、りゅうじさんの実家で育てた、ひとめぼれの新米だという。登米は県内有数の米どころ。美味しさは折り紙付きだ。

「最近、フレンチをつくり始めたんですよ。キムタクの『グランメゾン東京』を見て、主人公みたいに、そこら辺の草をつまんでみたりして(笑)。で、ついにこの前、メバル料理をつくりあげたんですよ。大きいお皿に、ちょっとだけ魚をのせたようなやつ(笑)。それがなんと、めっちゃ美味しかったんです」

りゅうじさんが料理を担当するのは主に夕食。毎日の朝食などは、たかとうさんがつくる。朝食に使うお味噌や梅干しは、娘と一緒につくったお手製のもの。食材を買うときはスーパーも利用するというが、野菜は8割くらい“調達”してくると言う。

「実家に行って食べる分だけとってきます。このおイモとかは、野菜畑を始めた夫の同級生からもらいました。時季になったら山菜を採りに行くこともありますね。昔、おばあちゃんと一緒に山に行ってたんで。そうやって、自然のものを拾ってくるのは好きですよ」

4.日だまりみたいなバーガーショップ

今年の6月から、たかとう夫妻はガレージの一角で、テイクアウト専門のバーガーショップを始めた。営業は月2回を目標にしているが、今は子育て優先。共働きで仕事もしているので、肩ひじ張らず、不定期で営業している。

「お店の名前は『パテラぺサン』って言います。“パテ”は、お肉のパテ。“ラぺ”は、バーガーに沿えるキャロットラペ。夫がパテ、私がラペを仕込むから、これで“パテラぺ”。“サン”は太陽。あと数字の「3」。私が30歳の時に始めたからですね。私、オレンジ色が好きなので、看板や内装に取り入れました。壁が黒っぽいのは、夫の好みです」

二人の好きが組み合わさってできたバーガーショップ。その店づくりには、根っからの企画屋で、カフェ経営にも携わり、お客さんと触れ合う接客が大好きだという、たかとうさんのセンスとアイデア力がいかんなく発揮されている。

「メニューは、毎回変わります。季節の食材を使った2種類が基本で、オリジナリティが毎回のテーマ。夏のチーズバーガーにはバジルソースを入れました。あと、仲のいいお客さんは注文を待っている間、店内に通しています。お子さんがその辺で遊び始めちゃったりするので、じゃあ店の中で待ってたら?ってことになって。店内にはそのうち、雑貨を置いたり、ちょっとしたスイーツやドリンクも出したくて、いまちょっとずつ改造中です」

店内には見事な一枚板のカウンターがあった。木材の種類はヒノキ。りゅうじさんが祖父から譲り受けたもので、かなり大きく分厚かったため、使えるサイズに切り出し削る作業は、かなりの労力だった。でもおじいちゃんのために、なんとかものにしたと誇らしげに話す。

「いい木なんですけど、まだ何十枚も残ってて。雨に当たらないよう軒下に重ねてあります。売ろうとしたこともあったんですけど、木そのものより、使えるようにする技術に値が付くので、そのままじゃ売れなかったんです。結局、切り出すのも削るのも自分たちでやったので、めちゃくちゃ大変でした。技術的には全然ダメですけど、気に入ってます(笑)」

ガレージには、お手製のブランコが揺れている。妻が思いつき、夫がつくったブランコは、お店に来てくれた子どもたちに開放している。りゅうじさんの愛車のシルビアも、子どもたちの遊び場になるのだそうだ。

5.自分で見つけた安らげる場所

忙しい日々を過ごすたかとうさんは、休日を、自分を整える時間にしている。日中に時間があいた時は、ヨガやよもぎ蒸し、時には温泉にも足を延ばす。そういう所を訪れると、知人や友人など、会いたい人に会える。一方で、一人の時間も好きと言う。

「一人のときは、カフェに行ったり、ドライブしたり。車で1時間くらいは行動範囲で、遠いところだと、石巻や仙台くらいまで行っちゃいますね。子どもを連れて、沢や海に行くこともあります。登米のはずれの東和町というところに、すごくきれいな沢があるんです。誰でも知ってる観光地より、そういう名もなき場所を見つけるのが好きです」

たかとうさんは、あまりナビを使わないらしい。迷っても感覚で進むと、いろんな出会いがやってくる。そうやってみつけたお気に入りの場所が、上沼八幡神社だ。とにかく美しいと語る熱にほだされて、連れて行ってもらうことにした。

「昔、ヒッチハイクをしたことがあるんですが、もし道に迷っても、その時みたいなノリで人に聞けばなんとかなる(笑)。行く場所は調べますけど、地方ってネットに情報がない場所もたくさんあって。だから好奇心に任せて、ドキドキしながら細い道も全部行ってみる。ドライブでも、散歩でも」

神社は、山の中にひっそりとたたずんでいた。静けさに満ちた参道は、隅々まできれいに整備され、本当に美しい。社殿の傍らには老杉の御神木がどっしりと根を生やし、すっくと天に伸びていた。近くで庭を掃除していた宮司さんに挨拶すると、境内を案内してくれた。

「私の苗字はシラハタっていうんですが、源氏の旗印の白籏のことですね。みなさん、八幡太郎義家って聞いたことがありますか。武勇の誉れ高い方で、父の頼義も優れた武将でした。その頼義公が武の神である八幡様に祈願し、義家を授かったことから、八幡様の申し子、八幡太郎義家と呼ばれたんです。その頼義と義家は3度ほど、蝦夷征伐の際にこの辺りに陣を張っている。この御神木は、そのときに義家公がお手植えしたものと伝わっています」

宮司さんはそれから、樹齢約一千年の御神木を、樹木医たちと懸命に守ってきた話を聞かせてくださった。たかとうさんは、いろいろと滞っているときに、このたくましい御神木に触れ、パワーをいただくそうだ。夕暮れの帰り道、オレンジ色の木漏れ日に包まれた参道を歩くたかとうさんは、その美しさに感じ入っているようだった。