家と暮らしを見つめるウェブマガジン

ひらやま家の人々

お母さんと広~い平屋の家に住む、ちば・あやなさんは、個性豊かな4匹の猫と一緒に暮らしています。猫の遊び場でもある部屋では、よく友人と宅飲みを楽しむそうです。そんなちばさんの、家のこだわりや日々の営みを紹介します。

1.これからつくる家

「平屋はちょっと夢だったんです」

ちばさんは、30 歳を前に中古の平屋を購入した。母と、人生を連れ添ってきた猫たちと、新しい広々した家で暮らしたいと思ったのが、大きな理由だった。建売りの物件も探していたが、立地や価格などを色々と考えて決断した。でも、最初にこの家に来たときは、少し驚いたという。

ちばさん

「内見に来たとき、まだ家の解体をしていて木枠しかないような状態だったんです。第一印象は正直、なんだかちょっと昭和っぽいかなって(笑)。でも、敷地は広いし、少しだけど庭もある。何より、ずっと憧れていた平屋っていうのが大きかったですね」

ちばさんの住む宮城県大崎市の中心部は、仙台まで車で1時間ほどの市街地だ。新幹線と在来線が乗り入れ、高速道路や幹線道路も近く、交通の便がすこぶるいい。カチタス営業担当の本間さんによると、こういう好立地の広い平屋は、本当に数が少ないそうだ。

とはいえリフォーム前の状態を見ただけで、若くして初めてのマイホームを購入する決断は、なかなかできるものではない。その時のことをちばさんは、こんな風に語る。

「初めて見た時から、母と二人で《なんだかいい家になりそうだよね》って話していたんです。大きな決断のはずなんですけど、とくに深くは考えてなくて(笑)。なんというか、直感ですね。外壁も家の中も、どんな感じになるかは分からなかったけど、ここにする!って思えました」

もちろん、環境のよさも魅力だった。スーパーもコンビニも近い。行きつけの病院にも行きやすい。移動は車が多いが、駅まで歩けるに越したことはない。それでも、決め手を割合にすると「環境は2割くらい」で、初見の感覚が大きかった。

「実際にリフォームされた家を見てみて、正直もうちょっとこうしたかったなと思う部分はあったんですが、その分これから自分で色々と作っていくのが楽しみになりました。私の中では《なんでもやれちゃう家》がコンセプトですね」

淡いターコイズブルーの玄関のドアは、明るい笑顔が印象的なちばさんに、よく似合う。どうぞと促されて家に入ると、ひょっこり黒ぶちのきれいな猫が姿を見せ、タタタタと足早に奥へと駆けて行く。

2.先輩猫と後輩猫

物ごころついた頃から、ちばさんの家にはいつも猫がいた。まだ外猫も野良猫も、巷にあふれていた時代だ。近くに住む祖母も猫を飼っていたこともあり、とても身近な存在で、生活のなかに猫がいるのがふつうだった。

「ウチには、その頃から同じ名前をつけ続けてる《チビ》っていう歴代の猫がいるんです。今のチビはあのキジトラ柄のコで4代目ですね。名前はチビですけど、いちばん大きいんです(笑)。とっても甘えん坊ですね」

ちばさんはいま、4匹の猫を飼っている。前の家から連れ添っているのはチビと、真っ白なモモという6歳の猫だ。臆病で、テーブルの下、窓の脇、おもちゃのトンネルなどにすぐ隠れてしまう。チビとモモは友人から貰い受けたそうだが、新居に移ってから新たに飼いはじめた2匹の猫は、それぞれ出会いにドラマがあるという。

「モモにそっくりの白猫で、目が青いコがいますよね。あれがフク、2歳です。この子は母親の職場の人が拾って、突然ウチに持ってきたんです。駅のそばでにゃあにゃあ泣いてたのを見つけたらしく《この家、大丈夫ですよね?》みたいな感じで(笑)。《なぜ?》と思いながらも必死でお世話しました。何しろ、とてもひどい状態だったので」

捨て猫だったフクは、皮膚病があり、耳から膿を垂らしていたような状態だった。3か月くらいは毎日のようにお風呂に入れ、行きつけの動物病院に通い詰めて治療し、ワクチンや去勢手術も施した。少しでも寂しくないようにと、色んなおもちゃや毛布も試した。

「フクは飼い猫にするまでがホントに大変でした。耳が聞こえないせいで怯えやすくて、ちょっと乱暴なんです。興奮すると噛んだり引っ掻いたり。でも、この囲いを買って、中にお気に入りの毛布を入れておいたら、自分から入っていくようになりました」

囲いの中で毛布にくるまるフクは、エキゾチックな青い目で、静かにこちらを見つめている。もうすっかり、この家の住人という顔だ。なかなか稀有な出会いだが、もう一匹、黒ぶちのナナとの出会いもドラマだった。

3.母と猫とDIY

まだ1歳少々のナナとの出会いも、母がきっかけだった。母の職場に居ついた野良猫が、ある日たくさん子どもを産んだ。野良なのでどうしようかと、みんなで話していると、母猫がそのうちの一匹だけをくわえて玄関前に置いていった。不思議に思って母が病院に連れて行くと、病気が見つかったのだそうだ。

「ヘルニアだったんですけど、身体が小さすぎて手術できない状態でした。よく見ると、確かにちょっとお腹がでっぱって、床にお腹がくっついちゃっていたんです。それで大きくなるまで気を付けて育てて、やっと手術してもらって元気になりました。母猫はきっと分かってたんですよね。自分は助けられないって」

猫との不思議な縁を連れてくる、ちばさんのお母さんは、ホントは犬派なのだとか。好きな犬種を訪ねると《種類はなんでもいい》《動物はネズミ以外は何でも好き》だと笑う。そんな真っすぐな愛情が猫たちにわかるのか、寝るときはお母さんのベッドに4匹が集まることが多い。

「4匹とも乗ってくると重いし布団も動かないから一緒に寝たくない、と母はボヤいてますね(笑)。確かに4匹いると、何十キロの米袋と寝てるようなものですから」

猫たちは二人のことが大好きで、トイレも、お風呂も、寝室も、どこにでもついて来てしまう。キッチンに入るときも、当然のようについてきてしまうので、立ち入れないよう工夫を施している。カウンターには柵を立て、キッチンとリビングの境には、猫が簡単に飛び越えられない扉を取りつけた。すべて、ちばさんによるDIYだ。

「私、DIYは得意じゃないけど、好きなんです。だから《あそこを、こうして、こうやろう》くらいのインスピレーションだけで手をつけちゃう。このキッチンの扉も、母の実家から不要な扉の枠をもらってきて、そこに透明なプラスチックの仕切りでもはめてみようかな、みたいな感じで作りました」

キッチンの脇には、確かに業者が取り付けたような立派な扉が付いている。とても筋がいいと思うのだが、きっちり計算して作るのが苦手で、失敗して倉庫に眠っているものもけっこうあるらしい。

4.休暇は友とにぎやかに

猫がのびのびと遊べることの他に、ちばさんが家の広さを気に入っているもう一つの理由がある。家に人をたくさん呼べることだ。玄関を入ってすぐのところにある、リビングと同じくらいの広さの部屋に仲間が集まり、「宅飲み」を楽しんでいる。猫の遊び道具がある部屋なので、みなも猫たちと仲良くしてくれている。

「月に2~3回は、誰かしら来てますね。頻度が高いのは会社の仲間たちですね。ボードゲームとか人狼ゲームとかが好きな後輩が、10人くらい集めてくるんです。それで休日に、大の大人が真剣にボードゲームをするわけです(笑)。飲みながらですけどね」

その時は、みんなから食べたいものを事前に聞いたりして、お母さんが何品か料理をこしらえる。あとは持ち寄りで、飲めないメンバーが車を出して、ぞろぞろ集まってくる。駐車場も広く、8台くらいなら入るところも、ちばさんは気に入っている。

「以前は母の実家とかに集まっていたんですが、トイレが汲み取り式で、部屋も狭かったので、思いきり楽しめなかったんです。でもいまは、何を気に病むこともなく、みんなでのびのび、どんちゃん騒ぎ(笑)。みんなで集まる機会は、確実に増えました」

インドア派のちばさんだが、休日には仲の良い友人と、神社仏閣をめぐる趣味もある。5~6年前から御朱印集めにもハマり、御朱印帳はもう3冊目になった。きっかけを聞くと、もともと小学生の頃から神社仏閣に興味があったという。

「私、昔から和風なものがけっこう好きなんですよね。お気に入りの御朱印は、鶴ヶ城(福島)とかですね。県内だと登米市の津島神社とか、県外は東照宮(日光)とかに行きました。一番遠かったのは東京ですね。友達が、恋愛運が高まる神社だって見つけて、御朱印いただいてきました」

ふだんは地元や近隣へ出かけることが多い、というちばさん。遠方でも近場でも、出かけた先で猫を見かけると、つい写真を撮ってしまう習性は、多くの猫好きと変わらない。友人と過ごす日常にも、いつもどこかに猫の気配がある。

5.いつもいる猫への眼差し

にぎやかに仲間と過ごす一方で、ちばさんは一人、推し活も楽しんでいる。「ヒプノシスマイク」という、ラップバトルで世界を変えるアニメにどっぷりハマっているようだ。平日も休日も、空き時間はもっぱら動画観賞に勤しんでいる。ただし、お母さんと一緒のときはホラー系の動画を見るという。

「二人とも、心霊ものが大好きなんです。ガチで怖いやつですね。偽物と分かっちゃうと怖くないので、脅かしてくるフィクションがあまり好きじゃないです。心霊ユーチューバーの動画とか、受け付けられるのはノンフィクションだけですね」

ソファーでくつろぎながら動画を楽しむリラックスタイムには、猫たちも参加する。でも、ホラーのおどろおどろしい映像や音に、猫たちは無反応らしい。たまに「なんか動いてるな」みたいな顔で見ていたりするくらいだそうだ。そして、動画に飽きると猫と遊ぶ。

「1日に1回は、遊ぶようにしてます。猫じゃらしで遊んだり、あっちの部屋とこっちの部屋を延々と走る《おいかけっこ》をしたり。かくれんぼとかもします。猫同士でも遊んでますけど、ウチのコたちはよく食べるから、運動が足りない。だから今、新しいキャットタワーがほしいんです」

仲間と集う部屋には、100均ショップで購入した猫のテントが仲良く並んでいる。1つだけ買ってきたところ争奪戦が起こったので4匹分そろえたのだとか。猫グッズは感覚で買っているそうで、このコはカサカサするおもちゃが好き、このコはふわふわな感触が好き、このコはヒモが好き、などちばさんは楽しそうに話す。

「青い目の白猫のフクは、いつもチビについて回ってるんです。お腹タプタプのチビは友人たちと騒ぐ部屋の黄色いソファーが好きで、よく寝てますね。カラフルなトンネルは、モモとナナのお気に入りですね。でもモモは、キャットタワーはあまり好きじゃないんですよね」

猫のことを話し始めると、ちばさんは止まらない。お母さんが、猫を撫でたり、遊んだりする仕草にも愛を感じる。自分たちにとって猫は“当たり前にいる存在”と笑うその表情は、猫がそばにいるときほどやさしく、穏やかに見えた。

写真:tsukao