自然豊かな南国を拠点にした 家族五人の愉快なキャラバン
宮崎空港には「宮崎ブーゲンビリア空港」という愛称がある。まさに南国イメージのこの地に移住してきた五人家族の本多家。夫婦の旅好きが高じて、住み慣れた岐阜から、自然豊かで暖かな南国の地へと移り住んだ。思い立ってから、わずか 4カ月で移住をかなえた家族は、いま宮崎でどんな時間を過ごしているんだろう。
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妻:あやなさん
兵庫県生まれ。旅と温泉とサウナとお酒をこよなく愛する、ほんだ家のムードメーカー。介護士の資格をもつ。神社ガールでもある。 -
夫:ひでたかさん
愛知県生まれ。プロの配送ドライバーとして家族を支える。やさしい人柄がにじみ出たような、爽やかな笑顔がトレードマーク。 -
こどもたち
れんきくん16才(写真上)
あみかちゃん6才(写真下右)
ゆめかちゃん4才(写真下左)
写真:押尾健太郎
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ひとりを楽しむ
-物語を紡ぐ息子と湯に浸かる母-
れんきくんと小説
こんにちは。れんきくんも、少しお話を聞かせてください。高校何年生ですか?
れんき いま高2です。
じゃあ、そろそろ受験勉強が始まりますね。
れんき まぁ、そうですね……(苦笑)。
なにか部活には入ってますか?
れんき いや、なにもやってないんです。
じゃあ帰ってきて、家でなにして過ごしてるんですか?
れんき 勉強してますね。それか、小説を書くか……。
え!すごい。どんな小説が好きなんですか?
れんき これが本棚なんですけど(茶色い布をめくると本がずらり)。僕はラヴクラフト(ハワード・フィリップス・ラブクラフト。20世紀初頭に活躍)っていうアメリカの小説家が好きです。あとは、星新一とか、太宰治とかも読みます。
文学青年ですね。あ、三島由紀夫の『命売ります』がありますね。これは僕も読んだことがあります。面白いですよね。でも読むだけじゃなく自分でも書くなんて、すごい。
れんき そうですか? あと、松本清張とかも結構読みますね。
マンガもありますね~。
れんき ええ。それは藤本タツキの『ルックバック』と『チェンソーマン』。『ルックバック』はアニメ映画を2回くらい見に行きました。
貴志祐介もありますね。懐かしい。
れんき 貴志祐介は『悪の教典』がダントツでいい。
れんきくんはミステリーとかサスペンス系の小説を書いてるんですか?
れんき ミステリーも書いているんですけど、ホラーも書きます。だいたい、どっちかですね。でもまあ、ようするに(どちらかの要素を含んだ)純文学ですね。
純文学、僕も好きです。お気に入りの一冊ってありますか?
れんき この『恐怖の愉しみ』っていう絶版本です。これは下巻で、いま上巻は持っていないんですけど。昭和に活躍した平井呈一っていう翻訳家が好きで、その方の訳本をかなり読んでます。
こういう情報はどこで仕入れてくるんですか?
れんき 基本、図書館ですね。借りてきて、特に気に入ったものを買っていく。だからここにあるのは好きな本ばっかり。読んだことのある、お気に入りがそろってます。
相田みつをの著作も、かなりありますね。
れんき ええ。相田みつをは、全部読んでると思います。
物語を書くとき
小説はどうやって書いてますか?
れんき (机にある機器を手にとって)このポメラっていうデバイスを使ってます。ワープロとは違うんですけど、昔からあるやつで、小説とか文章を書く人がよく使っているものです。
本格的ですね。これは、ご両親が買ってくれた?
れんき 中学のときに買ってもらいました。
小説はどうやって書き進めているんですか?
れんき 中学のときは大学ノートに書き溜めたたものを写していく、みたいな感じで書いてましたね。(抽斗からノートを出して見せてくれる)ノートに書いていたときと、今のように直接打ち込んで書いているときとは、感覚が全然違います。もともとは全部、手書きでした。
手書きのノート、とってあるんですね。
れんき 一番おもしろく書けたものは、こんな感じですね。
うわ、すごい緻密。雑な印象で申し訳ないけれど、なんだか伊藤計劃みたいな世界観ですね。
れんき 伊藤計劃もいいですよね。
これだけのエネルギーで書いてたら親に「夜中まで小説ばっか書いてるんじゃない!」「早く寝なさい!」とか言われません?
れんき ははっ。実は最近あんまり書けてないんです。中学生のころにやりすぎて、行ける高校がほとんどなくなっちゃったから、いまは勉強してます。
じゃあいまは、主に小説を読むほう?
れんき 読むのも、たまにですね。最近はマンガが多いかも。それこそ前は小説を書いて賞に送るとかやっていたんですけど、最近はなんか元気がなくて(苦笑)。送るつもりで〆切に間に合わず、やめちゃったのが最後です。
ちなみに、どういう話なんですか。
れんき うーん……人間の根本、悪とはなにか、みたいな。悪と、ひとまとめにするのはダメな気がするんですけど。言葉にするのは難しいですね。
芥川龍之介とか、そういう世界観なのかな。
れんき 芥川よりは、川端康成に近いですかね。だけど川端は、そんなに好きじゃないんですよね。
なんかちょっと、ジトっとしてますよね。
れんき 人間としても小説も……。でも、文章はとてもきれいなので、そこは好きです。
こういう文学の話、学校で語り合う人っていたりします?
れんき いないです、全く(笑)。でも一人だけ、特定の小説家が好きな人はいるかも。偏ってますけど、最近はTVやYouTubeもときどき見ます。
いろいろ世界が広がって、いいですね。
母と、父と、長男と。
れんきくん、とてもユニークで知的な青年ですね。一緒に出かけたりするんですか?
あやな 普段の買い物とかは、れんきはあんまり行かないかな。本が好きなので、やっぱり行くのは図書館。
じゃあもっぱら、図書館に連れてってとせがまれる?
あやな よく誘われるんです、本屋行こう、図書館行こうって。でも、連れて行かないです(笑)。自分で行ってきてって。
行ってくれないんですね……。
ひでたか いかへんな(笑)。まあ高校生だし、自分で行っておいでって。
あやな 行くとなると、娘二人も連れて行かなきゃならなくなるから、大変で。その割には、イオンとか一緒に行くと別行動。
移住してきて、れんきくんは楽しんでる感じですか?
あやな 楽しんでるかまでは分からないけど、マイペースは崩れませんね。特に反抗もないです。
感想を漏らしたりしますか?
あやな 部屋がちょっと広くなったっていうのと、駅までの道が平坦で楽になった。それくらいですね。あと星好きなので、星がきれいだって言ってますね。
そういえば、望遠鏡が欲しいんですよね。
あやな 岐阜から持ってきたものがあるんですけど、高いやつを欲しがってます。そんで「星を見に行こう」って言うんです。おかんに(笑)。
ほんとに星が好きなんですね。望遠鏡を買ってあげたら、その辺の公園で見てますかね?
あやな そうやと思います。最近「土星が見える」って話をしていて、それが見えるあいだに買わなきゃいけないって言ってきます。
とっても多趣味ですよね。
あやな でも、コロコロ変わりますよ。
転校した高校のことは、どうですか。
あやな 隣の子と前の子とはけっこう喋るって。だから、後ろの人とは話さへんのって聞いたら、後ろはおらんって(笑)。
ちゃんと馴染めてそうですね(笑)。
母のひとり時間
お二人は移住後、それぞれに楽しんでいることはありますか。
ひでたか 僕はひとりの時間っていうのは、あんまり持ててないですね。
あやな 私は一人でよく温泉に行っていて、それがすごく幸せ。月曜と木曜は終わり次第帰れる仕事なので、はよ終わらせられれば温泉行けるって思ったんですよね。
何時ごろに終わるんですか?
あやな 早い時は12時、遅い時は2時くらい。その後、娘たちのお迎えまで時間が空くんです。日によりけりですけど、2時間あれば行ける。よく行く都城温泉は、ほんとにローカルな感じで、泉質がとてもいい!
仕事終わりの温泉、最高ですね。
あやな 岐阜で通ってた温泉は静かで挨拶とかもなかったんですが、こっちは地元の人の憩いの場って感じで、とってもにぎやかなんです。初めての人でも暖簾をくぐれば挨拶する(笑)。そんな中で楽しく温泉入って、サウナ入って、水風呂入って……。
え、サウナもあるんですか?
あやな あるんです。もともと温泉は好きやけど、サウナはこっち来てから好きになりました。とにかく水風呂がめっちゃ大きくて、そこにめっちゃ長いこと入るんですよ。そんで水は、山の水。
すごい、いい感じでととのいそうですね。他にやりたいなと思ってることはありますか?
ひでたか 僕は、サーフィンとかはちょっと興味ありますね。
いいですね。宮崎、有名ですもんね。
あやな 私は神社を、もっといろいろ巡ってみたいです。
あの、しみじみ思うんですが、お二人の「これが好き」とか「これやりたい」っていうスタンス、すごくいいですね。移住の決断も、親の身勝手というより、子どもたちを信じてる感じがして。
あやな 私が思うのは、子どもっていろいろな境遇を与えないと強くならないし、子どもの感性も、環境を変えると一番育つんじゃないかなって。
ひでたか それに、親がストレスを溜めちゃったら子どもにも悪影響やし、やっぱり自分たち楽しまんと。それは子どもたちにも伝わっちゃうと思います。
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